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日本刀
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菊の花と一振り

2019.11.12

突然だが、みなさんは自分の家紋を知っているだろうか。

お墓参りに行ったときに見かける、墓石に彫ってあるあのマークだ。なんとなく、そんなものあったな~と思う人は多いかもしれないが、やはり自分の家紋を把握している人のほうが少ないだろう。

私の家紋はというと、真ん中に小さく穴が空いたひし形で、まあ言ってしまえばパッと見すごく地味だ。お墓参りで初めて家紋を見たときは、周りの家とくらべて可愛くなくて残念だなあ、なんて思ったりもした。

日本における家紋の始まりは平安の時代まで遡り、鎌倉時代以降、一気に普及し始める。
家紋とは、言わばその家のロゴマークで、自分はこの家の者ですよ、とひと目で分かるようにするものだ。たとえば私が鎌倉時代に生きる武将だったとしたら、戦場でうっかり味方に斬られたりしないように、武具にはあの地味で可愛くないひし形の紋を入れておくのだ。

家紋は当然のように刀の装飾にも使われるようになる。美術品としても価値の高い刀は、豪華で趣深い拵(こしらえ)で飾られることもしばしばで、そこに家柄を示す家紋を入れることでより一層の威厳をもたせたのだ。

黒蝋色塗葵紋散金蒔絵鞘大小拵
画像出典@刀剣ワールド 
徳川家所縁の拵。重厚で趣深い

 

さて、今では2万近くの種類が確認されている家紋だが、その中でも最も有名な紋といえば「菊紋」で間違いないだろう。
日本人であれば誰でも一度は目にしたことがあるだろう菊の紋。これは日本の国章であり皇族の紋章である。

実はこの紋章をその刀身に刻むことを許された日本刀が存在する。その刀こそ、備前一文字派則宗が打った「菊一文字」だ。

この刀の出自は今から約800年前の鎌倉の時代。
時の上皇である後鳥羽上皇はたいそうな刀の愛好家で、自ら鍛刀も行っていた。そして上皇が鍛えた刀には、自身が好んだ十六弁の菊の花の紋を毛彫りしたという。これを「御所焼」「菊御作」などと呼ぶ(実は、後鳥羽上皇は刀をはじめとする身の回りの品を菊紋で飾ったとされ、このことが皇族の紋が菊紋になった起源とされている)。

また、諸国の著名な刀鍛冶たちに御番鍛治を任じていた後鳥羽上皇だが、特に作品への信頼が厚かった則宗に対しては、皇位の紋である十六弁の菊紋を銘に入れることを許した。
こうして則宗が打った刀の中で「十六弁の菊紋」に「一」が銘に入っているものを「菊一文字」と呼ぶことになる。

 

太刀 銘 則宗(菊一文字とは別作) 
画像出典@刀剣ワールド 

銘とは刀のなかご※に刀工の名前や製作年月を彫ったもので、手で握る部分なので普段は柄に隠されている。つまり、刀を手入れする際、柄から刀身を引き抜いて初めて本体に彫られた菊と一の文字が姿をあらわすのだ。そんなの最高にセクシーだしかっこいいじゃないか。

「菊一文字」と聞いて、なんだか知ってるかもしれないぞ、と思ったそこのあなた。歴史小説や漫画が好きな人で間違いないだろう。
そう、この菊一文字、数多に存在する刀剣の中でも抜群の知名度を誇り、多くの創作物に登場する。この文章の執筆中にも、「菊一文字って知ってますか?」なんていう、「は???」という反応を返されかねない質問を周囲の人にしてみたのだが、「なんか聞いたことある…!」という返答がちらほらとあって感動してしまった(もちろんそれ以上に「は???」という顔もされた、ドンマイ)。

いちばん有名な話としては、新選組一番隊隊長、沖田総司の愛刀であったとする説だ。実際に、ここ20~30年の新選組が出てくる漫画などには菊一文字が登場することが多いので、ぜひ注視してみてほしい。

 

しかし、菊一文字は上皇に認められるほどの名刀であり、希少価値・価格ともに驚くほど高いものであったと推測される。そんな名刀を一剣客である沖田総司が所持できたはずもなく、これは『新選組始末記』の著者である子母澤寛 (しもざわかん)の創作という見解が一般的だ(なにより、実は菊一文字の存在自体が誤伝である可能性も高い)。その後この小説の影響を受けた司馬遼太郎が『燃えよ剣』『新選組血風録』の中で同じ設定を用いたため、世間一般には菊一文字=沖田総司というイメージが作り上がった。

余談だが、私の初菊一文字(初めて認識した菊一文字の意)は漫画『るろうに剣心』の登場人物である瀬田宗次郎の愛刀だったので、今でも私の中ではそのイメージが強い。作中でも「長曽祢虎徹をも凌ぐ幻の名刀!」と紹介されているところが胸アツポイントだ。
詳しくは、集英社発行『るろうに剣心』15巻をご参照いただきたい。

 

 

家紋というのは、自家のものも分からなければ、何となく目にしていても名前も知らない、そんなものが多い。それと同じように、小説を読むときや映画を見るとき、私達は自分でも知らないうちに、たくさんの刀に出会っているのかもしれない。ただ無意識なだけなのだ。
もしこの先、あなたが何かの創作物で「菊一文字」の名を見れば、あっ、聞いたことあるぞと思うだろう。
その時はぜひ、あのコラムで読んだなあと私の顔も思い出してみてほしい。きっと「見つけちゃったね」と言わんばかりにニヤッとした顔で笑っていると思うから。

※「なかご」とは、刀身のうち手で握る部分のことで、柄(つか)の中に入れられている。

 画像協力

 

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