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嘘くさいものは意味がない

赤松 美容業界って、離職率が高いんですよ。

安藤 そうなんですか?

赤松 他業種の方から見たら、意外に思われるかもしれませんね。私たちの世代は、「サラリーマンに向いていないから美容師になる!」という道の選び方だったけれど、今は、サラリーマンになるのと同じ感覚の人も多いんですよ。だから、入社説明会などをすると「福利厚生はどうなっていますか?」とか「定時で帰れますか?」という質問が真っ先に上がるくらいで。

安藤 それなら、一般企業に就職したほうが……いいかも。

赤松 確かにそうなんですよね。でも美容室も企業といえば小さな企業で。とはいっても、やっぱり職人だし、技術者なんです。

安藤 髪を切るのは技術ですものね。

赤松 先ほど、桃子さんから「魂」という言葉が出ましたが、本当に「魂」って大切だと思うんです。プロフェッショナルとして、技術を追求するとか、追求し続けるとか。

安藤 そうじゃないと髪を預けるほうとしては不安ですよ。

赤松 私自身、20年近くこの仕事をやっているけれど、今でも「もっとうまくなりたい」とか「やり続けたい」って思っているんです。とてもシンプルだけれど、お客さまをきれいにして喜んでもらうっていうのが、いちばんうれしいことで。エネルギーの交換をしているような感じなんですよ。

安藤 いいですね。エネルギーの交換。

赤松 FACE  TO  FACEの仕事だから、エネルギーの交換をするとハッピーなオーラが出るじゃないですか? もちろん、失敗すれば負のオーラが出てしまうんだけれど(苦笑)。

安藤 それは避けたい(笑)。

赤松 私たち美容師にとっては、美容院というここがステージで、その舞台に上がるためには、必要なことがいっぱいあって。でも、アシスタント時代は、確かにお金もないし、時間もない。身につけていかなければならない技術はいっぱいあるし、覚えなければならない知識も山ほどある。ひとつの企業として美容院をとらえると、こんなに辛いことはないんですよね。だから、どんどん辞めていってしまう。美容業界全体としては、今、それを嘆いている感じなんです。

安藤 なるほど。

赤松 ただ、私個人としては、まったく嘆いていないんですよ。

安藤 どうしてですか?

赤松 淘汰されるべきだと思っているからです。サラリーマンになると、誰でも生き残れてしまうから。サラリーマン美容師は必要ないんじゃないかな?って。このステージは、本気で闘う人だけが残ればいいんじゃないかな?って。

安藤 なるほど。

 

赤松 そうでないと、お客さまが被害者になってしまう。本気の人だけが残れば、被害者が少なくなると思うんですよ。だから、生活の手段として美容師をやるのではなくて、生きる道として美容師を選ばないとダメなんじゃないかな?って。

安藤 映画監督と同じですね(笑)。

赤松 業界の偉い人たちが考えていることと、私の意見は違うかもしれないけれど、うちのサロンで言うと、今、12年目なんですね。

安藤 原宿で12年やっているって、すごいことですよね。

赤松 自慢じゃないんですけれど(笑)、うちのサロンは、とてもストイックなんです。楽じゃないけれど、みんな楽しんでいる。それがうれしいところですね。新人が入るとよく「本気で楽しみたいの? 楽をしたいの?」って聞くんですけれど、一生懸命やっているから楽しくなるのであって、楽をしていたら楽しくはならないんじゃないかなって。

安藤 「楽」という字は同じでも、まったく違いますよね。

赤松 たとえば、ヘアデザインを発表するのにモデルが必要で。その「モデルハント」をアシスタントがやるんです。楽じゃないんですけれど「切れる人にしてね」「デザインできるモデルさんを探してね」というのがうちでは大前提なんです。

安藤 え?

赤松 え? 当たり前のことでしょ? と思いますよね。

安藤 うん、思いますね。

赤松 たとえば、雑誌でヘアデザインを発表するときに、実際に髪を切ってその美容師さんがデザインできるかどうかではなくて、制約があって髪を切ることができなくても顔が可愛いコを使おうとする傾向があるんです。

安藤 そうしたほうが楽だし、得できますね。

赤松 そうなんですよ。ヘアスタイルそのものよりも、顔の可愛さに目がいくから、そっちのほうが得と考える人も多いんです。それでどうなるかというと、顔の可愛い子が、あちこちのヘアサロンのモデルとして登場することになる。本当は制約があって切っていないのに、ヘアアイロンで巻いて「自分のデザインです」という発表の仕方をしている人もいるんですよ。

安藤 意味ないじゃないですか!

赤松 そう。まったく意味がない。でも、それが当たり前になっている現状があるんです。そんなの嘘くさいし、ならば、やらなければいいと私は思っているんです。

 

プロフィール

右)安藤 桃子 MOMOKO  ANDO
1982年東京都生まれ。映画監督。小説家。高校時代からイギリスに留学、ロンドン大学芸術学部を次席で卒業。その後ニューヨーク大学で映画づくりを学び、監督助手として働く。2010年4月、監督・脚本を務めたデビュー作『カケラ』が、ロンドンのICA(インスティチュート・オブ・コンテンポラリー・アート)と東京で同時公開され、その他多数の海外映画祭に出品、国内外で高い評価を得る。2011年に幻冬舎から初の書き下ろし長編小説『0.5ミリ』を刊行。現在、文庫版が幻冬舎から発売中。また、同作を自ら監督した映画『0.5ミリ』が2014年11月8日に公開し、現在も全国公開中。また、毎日映画コンクールでは脚本賞、その他の映画賞では作品賞、監督賞など日本の映画賞の数々を受賞した。
左)赤松 美和 MIWA  AKAMATSU
VeLO ディレクター。大学時代にバックパッカーとして海外をひとり旅したときの経験から、言葉以外の手段によるコミュニケーションツールを求めて美容師になることを決意。ハサミを通じてのゲストとのコミュニケーションをライフワークとする。2003年原宿に鳥羽直泰氏とともにヘアサロン「VeLO」をオープン。2009年同じく原宿にヘアサロン「vetica」をオープン。現在、VeLO ディレクターとしてサロンワークを中心に、雑誌の撮影、セミナー、ヘアショーなどで活動。2015年4月、2店舗同時移転リニューアル。“大人が集う原宿“でヘアを通じて「日常を素敵に。」という思いを発信中。

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